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最高裁判所第一小法廷 昭和40年(行ツ)4号 判決 1968年6月20日

上告人

石井守雄

代理人

広瀬松夫

被上告人

株式会社小松川製作所

代理人弁理士

平元敏雄

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人広瀬松夫の上告理由第一点ないし第三点について。

論旨は、要するに、実用新案の類否は、それが考案の要部をなすものであつても、肝要度の低い部分の異同には拘泥することなく、その考案構成上の主要部あるいは特徴と認むべきところについて、それが同じ構想に基づくか否かによつて判定すべく、しかも、旧実用新案法(大正一〇年法律第九七号)による実用新案権は、物品に関する型を保護する権利であるから、類否の判定は、外形的な型の全体的観察によるべきであつて、作用効果の類否を考慮すべきものではないと論じ、この見地から電纜架設用受金具に関する上告人の本件実用新案(以下本件金具と称する。)と(イ)号図面および説明書に掲げるもの(以下(イ)号金具と称する。)とは、取付部の構造に相違が存するにしても、それは重要度の低い部分における微細な差異にすぎず、両者は全体構造上の型において類似と認むべきものと主張し、右取付部の構造上の相違とこれに基づく作用効果の差異を考慮し、(イ)号金具は本件金具の権利範囲に属さない旨を判示した原判決を、非難するものと認められる。

しかし、原判決が本件金具および(イ)号金具についてそれぞれの考案の要旨と認定したところは、いずれも相当であり、右認定に基づけば、上告人の本件実用新案権は電纜架設用受金具の腕杆部など所論の主要部とする点の構造について付与されたものではなく、腕杆部の構造と取付部の構造を結合して一体として構成された右受金具としての型の考案に実用性、新規性あるものとして付与されたものと認られる。そして、本件権利範囲の確認は、右のような内容の上告人の実用新案権の効力の及ぶ範囲を、具体的に(イ)金具の考案との関係において確定するものにほかならない。従つて、イ号金具が本件金具の権利範囲に属するか否かの判定は、両者の考案の要旨とするところを対比し、右受金具主体としての型の考案が同一か否かの考察によるのを相当とし、所論のように、考案の要部に軽重を付し、その一部を主要部ないし特徴とし、主としてその部分の異同をもつて判定すべきものではない。

また、旧実用新案法によれば、実用新案は、物品に関し形状、構造または組合わせに係る実用ある新規の型の考案を保護する権利であるから、その権利としての保護は、考案を表現した物品の型に着眼して与えられるにしても、それが保護されるのは、その型の考案が実用性ある作用効果を有するためであることを看過すべきでない。されば、物品の型の考案でその構造上では近似するところのあるものの間においても、それらがその構造の相違するところに基づき実用性の面で別異の作用効果が認められるときは、実用新案の対象としてり扱われるべきものと解するのが、この制度の趣旨に適合するものといわなければならない(大審院昭和一七年(オ)第九四七号、同一八年一〇月一五日判決、民集二二巻一〇七四頁。)すなわち、所論のように、単に外形的な型の異同のみによつて実用新案の類否を判定すべきものとする見解は首肯しがたく、原判決が実用新案の構造の類否を判断するに当たつては、その構造を結果した目的、作用効果をも考慮すべき旨を説示したのを失当ということはできない。原判決は、本件金具と(イ)号金具とを各全体について観察すれば、両者はその腕杆部の構造において一致するところがあるにしても、その取付部の構造において相違し、その構造の相違から電纜架設用受金具としての作用効果に異なるものが存し、前者の構造からは後者にみられる作用効果は生じない点からいうも、後者の構造によつては前者にみられる作用効果を保有しえない点からいうも、その構造の相違は両者の型を非類似とするに足り、後者を前者の権利範囲に属しないと判定した趣旨と認められ、その判断は、十分肯認することができる。

論旨は、なお原判決に理由の不備または齟齬あるものと主張するが、その指摘する点につき論旨の前提とする前叙上告理由に示された見解は採用しがたく、また原判決の認定に所論の違法も認めがたい。されば、原判決の示す理以上の説示を要するものではなく、原判示を失当とする理由も存しない。

論旨はいずれも採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(長部謹吾 松田二郎 大隅健一郎 入江俊郎は海外出張のため署名押印できない。)

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